そう、我々の世界はとうの昔に破綻している。
さながら、人類全体で突っ走るように奈落の底へと向かっていったのだ。
それを見ていた。じっと、何もすることもできず――何もすることもなく。
ただ、見るしかなかった。
悲しくはなかった。罪悪感がコールタールのように絡みついて、
自分の動きを阻害していただけである。
全て終わってしまった今でも。
その罪悪感は鎖となり、足枷となり、天道刹那の体を縛り付けている。
「――ふうん。まあアレね。忘れてしまえばいいんじゃないの?」
「忘れることなど、できないよ」
リリスのあまりにも安直な解決法に、天道刹那は溜息をつく。
「少なくとも、そういう思い出は大切に包んで、
そっと戸棚の奥へしまい込むべきなの」
「どうして?」
「だって。そうでなきゃ、辛いじゃない。辛さを背負うのはまあ、仕方ないとしても。
それを未練がましく抱き締めるのは、馬鹿のやることよ」
からからと、心底愉快そうにリリスは笑う。
天道刹那はなるほど、と素直に頷いた。
「ふむ。……忘れるにはどうすればいい?」
「そりゃ、簡単。面白可笑しく人生過ごしなさいよ」
それはまた難問だ、と天道刹那はもう一度溜息をついた。
「リリスみたいに、存在が面白可笑しければ何とでもなるんだが」
「貴方今ヒドいこと言ってるからね!?」