彼女の言葉から、全ては始まった。
より正確に言うと、彼女の言葉を正しいと断じた大天使によって、であるが。
ともあれ、彼女はメッセージを送り届けた。
それは愛はなくとも、希望に充ち満ちたメッセージである。
巡礼せよ。
全七階層、浮遊する煉獄の東京バベルを踏破せよ。
人の手で天国の門を開き、乞い願え。
――我が贖いを捧げる。我が罪を赦し給え。
天使たちも悪魔たちも、息せき切って巡礼する。
そうして、気付く。
おかしい、何かがおかしい。ただ巡礼するだけ、ただ贖いを求めるだけ。
かつて、地獄を訪れた詩人のように――ただ、巡るだけでいいはずなのに。
何故我らは壊れなければならないのか、何故狂わなければいけないのか。
何故、かつての友や敵と、殺し合わなければならないのか。
世界の破滅が、間近に迫っているというのに――何故、自分は殺されているのか。
欠片も理解できなかった。
無知な天使たちをメッセンジャーは見る。
その瞳が、悲しみに曇っているのか。あるいは愉悦に歪んでいるのか。
それ以外の何かなのか――それは、誰にも分からない。