ダンタリオンは群体である。
彼らはそれぞれが端末であり――ネットワークを構築することで本体を存在させることなく、
ダンタリオンという存在を形成している。

 

彼と彼女は本を読み、本を整理し、本を分類する。
全ての並行世界から掬い上げた図書が、彼らの担当。
燃やされた本もある。救えた本もある。消えてしまった本もある。

 

「――故に。この図書館は永遠に不完全なのだ。例えばほら、ほ乳類の記録は
ほぼコンプリートしているが、魚類の記録は幾つか永遠に喪失してしまっている」

 

「魚類の本って、どれくらいあったの?」
久沓空見の問い掛けに、ダンタリオンたちは腕組みして悩む。

 

「数え切れん。マグロの背びれの形が違うだけで、我々としては異なる本だと
カウントしなければならないからな」

「……大変そうですな」

「大変だとも。だがまあ、本をいつでも読めるという役得は存在する。それも二十四時間ブッ通しで、だ」
「あ、そう言えばこれ聞きたかったんだ。マンガってあります?」
「あるぞ。項目的には『ああ』の001から『んん』の999までが、全部マンガだ。同じマンガでも、初回限定版、通常コミックス版、愛蔵版、コンビニ版、文庫版と、様々なバリエーションがあるからな。揃えるのも大変だよ」

 

「……そりゃ、全部揃えていたら大変でしょうな」
「しかも。同じマンガでも異なる並行世界では、違う設定や結末を迎えているのがあってな。
それらをいちいち網羅するのも大変だ」

 

「へー……例えばどんなのが?」
「武将が全部女の子になった『三国志』とかあるぞ。最後は魏呉蜀全てが統一されるハーレムエンドだ」
「それ、歴史の方がヤバいことになってませんか!?」
「ダンタリオン男の人気投票では、楽進が一位だったそうだ」
「思いっきりどうでもいいよ!」

 

「まあ、ともかく。無限とも思える本を、きちんと整理する毎日は楽しいものだ。なあ、ダンタリオンたちよ?」
ダンタリオンの呼び掛けに、ダンタリオンたちが男女問わず頷いた。

 

「ああ。ここには智慧があり、情熱があり、咆吼があり、希望と絶望がある。人が人として生きてきた
全てがここに詰まっている。……という訳で久沓空見」
一人のダンタリオンが、久沓空見に本を差し出した。
分厚く大きい、ハードカバーの本。

 

「今のお前に、相応しい本だ。どうか、この本がお前を導いてくれるように」