――では、仮想で空想の敵を打ち倒せ。
アダムが最初に命じられたのは、そういうものだった。
その肉体は頑強で、柔軟で、凄絶な存在。
まずは、この体を使いこなさなくては話にならない。
襲いかかるのは無数の骸骨兵士――手にはブロードソードとラウンドシールド。まあ何と言うか、倒されるために産み出されたような存在である。
――攻撃を行ってはならない。
そう命じられているため、彼は溜息をついて攻撃を避けた。薄皮一枚、髪の毛一本も斬らせることなく、彼は退屈そうに攻撃を避ける。
それを三時間行い続けた。そこでもういいぞ、と言われたので剣を素手で受け止めて拳で殴り飛ばすことにした。拳は防ごうとした鋼鉄製の盾を貫通し、兵士の骨を破砕した。
砕く、壊す、打倒する。繰り返し繰り返し、彼らを打ち砕き続ける。
「お疲れ様でした、アダム」
イヴがそう言って、タオルで汗を拭こうとする。
「……いや。疲れてはいない」
アダムの言う通り、彼は汗一つ掻いていなかった。彼にとって、今回の訓練はあまりに楽すぎたらしい。
「はい……」
イヴは少し困ったような笑みを見せ、タオルを戻した。アダムはそれを見てしばし考えた後、冷水器で水を飲み、顔や首筋に水を零した。
きょとんとするイヴに、アダムは眉一つ動かさずに手を差し出して告げた。
「すまないが、タオルを貸してくれ」
イヴは微笑み、タオルでアダムの顔と首を拭いた。