ケルベロスには三つの頭があり、それぞれが独立した思考や性格を保っている。
まあ、考えてみれば当然だ。脳が三つあるんだから。

 

僕――天道刹那は、ケルベロスの頭を撫でていた。
とりあえず、真ん中の奴を。
……そうすると、左右の頭からクレームが届く。

 

「コラー、ビョードーにあつかえー」
「そうだそうだー、なんのためにみっつあたまがあるとおもってるんだー」
「分かった分かった」
仕方なく、両手で左右の頭を撫でる。
……今度は、真ん中の頭からクレームが来た。

 

「ずーるーいー!」
「無茶を言うな、僕の手は三本も無い。誰か一人……誰か一頭が我慢しなければならない」
「うーうーうー」
真ん中の頭がぷりぷり怒り、がじがじと噛んだり舐めたりする。
痛くはないが、くすぐったい。
……しょうがない。助っ人を呼ぼう。

 

「空見ー、ちょっといいか?」

 

久沓空見を召喚し、ケルベロスに会わせることにした。
震えて目を見開き、涎を垂れ流しながら彼女はケルベロスにダイブする。

 

「キャーーーーーーーーっ! 可愛い可愛い可愛い可愛いケロケロケロケロケローーーっ!」
空見が、ケルベロスをハゲさせるような勢いで撫でくり回し始めた。
凄まじい速度で三つの頭と腹部と背中と前肢の肉球を撫でに撫でまくる。
……何だか彼女の腕が三本どころか六本に見えてきた。
ケルベロスが悲鳴をあげ、僕に助けを求める。

 

「せつなーっ! たすけてーっ!」
「そらみちゃんのあいがおもたいーっ!」
「ぼくたちなでころされるーっ!」

 

しばらく考えた後、僕は合掌してその場を立ち去った。
後日、ケルベロスの訴えをカマエルが受理し、空見がケルベロスを撫でる際は、
監視役をつけることになった。

 

「はーい、空見ー。撫で方ちと激しいよー。減点一な」
「うう、リリスの判定ちょっと厳しくない?」
「摩擦でハゲさせる訳にはいかないから、厳しめなの。
そら、ケルベロスのリクエスト通り撫でる撫でる」

 

「へいへい。優しく……優しく……」
「わーい、ぜつみょー」
「いいねーいいねー」
「そらみちゃんもわかってきたねー」

 

ケルベロスは、空見とリリスに撫でられ大層ご満悦であった。

 

「……地獄の番犬、か」
「言うな、それ以上何も言うな」
カマエルは頭痛を堪えるように、指で眉間を押さえた。